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(1)赤城の天狗

(1)赤城の天狗

舞うが如く 第一章
(1)赤城の天狗


画像の説明


 江戸時代の末期。
赤城の山麓を軽快に闊歩する、白髪の初老の剣士が居た。
名は富樫白星。剣術と柔術の両方に精通している。
住まいを定めず、弟子の家々をめぐり歩き、日々を過ごしていた。


蜂蜜に薬草を入れた手製の呑み薬は滋養に富み、病後によく効くと評判です。
生まれも育ちも、寡黙に語らないこの老剣士は、長くひとところにはとどまらず、
赤城の山麓を中心に西は前橋から、北は峰を越えた利根や
片品方面までを歩きまわります。


 一日に数十里をあるくという、たいへんな健脚の持ち主です。
まるで仙人のような風貌ですが、あえて本名は名乗りません。
通称を、短く「法神(ほうしん)」とだけ発します。


 「すきあらば、いつでも打ってよろしい」と、板の間に端坐します。
小柄で細身の老剣士はそう言うと、すくっと背筋を延ばしてから、
好物のどぶろくの盃を静かに口にと運びます。
ごくりと喉が鳴り、旨そうに目を細めました。


 弟子の木刀が、空気を鋭く切り裂きます。
徳利と盃を手にしたままの老剣士が、ふわりと舞い上がり、片足で天井板を抑えると、
そのままくるりと一回転をして音も立てずに縁側に舞い降りました。


 「なかなかの打ち込みで有る。
 だがまだ、気持ちが急ぎすぎておるのう・・・はやりすぎじゃ。」


 そう静かに言い残すと、縁側にどぶろくの徳利を置き
その場でトンと地面を蹴ると、高さ6尺あまりの板塀を軽々と越えてしまいます。
いつもながらの、天狗のような身のこなしです
ヒョイと再び、老剣士が板塀上に現れました。


 「これは、わしとしたことが失礼をした。
 旨いどぶろくをいただいた礼に、ひとつ奥義をお見せしょう、
 剣には常に強さは要るが、時と場合で切れないものもある。
 断ち切るとは、こういう意味じゃ」


 そういうと、さきほどまで口に運んでいた盃を空中高くに放りあげます。
腰にした太刀に手をかけるやいなや、気合とともに身を躍らせて
その場の空気を十文字に切り裂いた後、とんと軽やかに板塀に着地しました。


 「壊れていては、使い物にならぬであろう。
 次回よりは、これを使うがよい」


 そういうと、板塀の上に懐から取り出した土器の盃を置きました。
ほどなく先ほどの盃が、静かに地面に落ちてまいりました。
着地した瞬間に、綺麗に縦2つに割れてしまいます・・・
それが転がりかけた矢先に、さらに上下の2段に割れました。


 板塀の上に、もう老剣士の姿はありません。



コメント

  • 新しいテーマ


    まったく新しいテーマらしいですね
    たのしみです。



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