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『ひいらぎの宿』(1)

『ひいらぎの宿』(1)

『ひいらぎの宿』(1) 第1章 2人の旅籠が出来るまで 
・氷のぼんぼり・かまくら祭り


川に沿って立ち並ぶ、雪の湯西川温泉旅館の風情


 『光輝く氷のぼんぼりと、かまくら祭り』は、
毎年1月の下旬から約1か月間にわたり、湯西川温泉で繰り広げられる冬の風物詩のひとつです。
大小様々なかまくらが、温泉街のメインの通りに賑やかに建ち並びます。
1000個を超える高さ30センチあまりの氷のぼんぼりが、日暮れとともに淡く灯されていくと、
山あいにある落人伝説の湯の郷が、幻想的なまでに浮かび上がってきます。


 静かに舞い続ける細かい雪は、日が暮れても鎮まる気配をみせません。
ぼんぼりの淡い光の連なりが2人の歩む足元を、かすかに静かに照らし出していきます。
傘を傾け積もった雪を払い落とした清子が、ついでとばかり俊彦へそっと肩などを寄せてきます。


 「他人が見たら、ワケアリの2人だと絶対に誤解をする。お前、くっつき過ぎだ」


 「誤解をされて困る歳でもないし。幸いなことに周りを見回しても人の姿などは見えません。
 このまま傘に隠れて口づけなどをしましても、たぶん闇に紛れてどなたからも見えないと思います。
 うふふふ。変ですねぇ、あたしったら。勝手にウキウキしっぱなしで。
 今からあなたを誘惑をして、いったいこの先でどういうことになるのかしら。
 うふふ、楽しみで仕方がありません」


 『いいから来て。今年はどうしても氷祭りにやって来てください。大切なお話もありますから』
と、一方的に清子から呼び出され、俊彦がやっとの思いで雪の湯西川温泉へ到着をしたのは、
日が暮れるすこしばかり前のことです。


 「滑りどめのチェーンを巻いたが、それでもやはり、何度か山道では滑った。
 まったくなぁ。真冬にお前さんに会いに来るには、いつものことながら命懸けだ」

 
 「そう言わないの。でもその命懸けのドライブも、それも今回で終わりになります。
 でも嬉しいな。たった一本電話をあなたにかけただけで、
 何も言わずにこの雪の中を、わたしのために飛んできてくれるんだもの。
 あなたのその熱い気持ちでこの雪が溶けてしまったら、もっと素敵なのに。うふふ」


 「大丈夫か。熱でもあるんじゃないか、清子。
 さっきから少しおかしいぜ。いつも以上にベタベタと俺にまとわりついてくるし、
 なんだか色香までが必要以上に、俺の周りでムンムンと漂ってくる。
 何か特別な問題でも発生したのかい?。
 どうにも気分が入れ込み過ぎているようだ。まったく。どこかの発情期の小娘じゃあるまいし」


 「仔細については、のちほどにゆっくりとお話などいたします。
 そんなことよりも、せっかくですもの恋人気分などを、もっと満喫いたしましょう。
 あ、あら・・・・まずい。俊彦。ちょっと背中を貸してね」


 たくし上げた角巻を清子がそのまますっぽりと頭から被り、残りの部分を
素早く俊彦に羽織らせます。本人はそのまま、するりと俊彦の背中へ消えてしまいます。
角巻は、北海道や東北地方の女性たちが、外出するときに身にまとう防寒着です。
大きめの四角い毛織物で、三角に折り背中から羽織るように着用をする冬の必需品です。


 ショールと異なり、すっぽりと体が収まるくらいの大きさのものです。
色合いも茶や赤、紺などと様々で、四角形のふちに房がついていて歩くとさらさらと揺れます。
角巻は明治の初期、開拓民たちの歴史と共に始まり、昭和30年代にその役割を終えています。
厳寒地方特有の冬の風物詩のひとつですが、和服の衰退とともに姿を消しはじめたと言われています。
こうした角巻の存在を知っているのは50歳代以上と言われ、今を生きる雪国の若い人たちには
まったく無縁ともいえる、昭和期の伝統衣装のひとつです。


 「ごきげんよう」。傘の下から顔を見せたのは、老舗の伴久ホテルの女将です。
洋装用と思えるコートなどを羽織っています。単衣(ひとえ)でも暖かいというモーリークロスの
ヒネモスノタリという着物の裾からも、やはり洋物と思えるブーツの先端が覗いています。
洗える素材というその着物の裾は雪のために、やや短めに着付けられています。


 「あら、俊彦さんお一人ですか?
 おかしいですねぇ。遠目の様子では、お二人のようにも拝見をいたしましたが?」


 女将の涼しい目が、中途半端なままにモコモコと動きつづけている俊彦の
角巻の様子になぜかピタリとして、クギ付けになっています。


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