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つわものたちの夢の跡・Ⅱ (1)新田義貞、戦没の地

つわものたちの夢の跡・Ⅱ (1)新田義貞、戦没の地

つわものたちの夢の跡・Ⅱ

(1)新田義貞、戦没の地


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 すずが住む坂井市は、福井県の北部に位置している。
市街地の南部を、福井の7割近い流域面積を持つ、九頭竜川が流れている。
市の北部を、東部の森林地域から流れ出した竹田川が横切っていく。


 2つの川は市の西部で合流し、日本海へ注ぎ込む。
中心部に福井でトップをほこる、穀倉地帯の坂井平野が広がる。
岩場の多い海岸線の北部には、名勝で知られる東尋坊の断崖が横たわる。


 JR丸岡駅に近いすずの自宅から、東へ2キロほど行くと、
時宗(じしゅう)派、称念寺(しょうねんじ)という古寺が有る。
時宗は鎌倉時代末期に興った、浄土教の新興宗派だ。
総本山は鎌倉武士との関わりが深い神奈川県の藤沢市に、いまでも残っている。


 称念寺の歴史は、きわめて古い。
奈良時代、養老5年(721年)に誕生している。
奈良時代を代表する修験道の僧、泰澄(たいちょう)太師が、
天皇の命を受けて、この地に、阿弥陀堂を創建したのがはじまりとされている。
泰澄(たいちょう)は、長い間、人が足を踏み入れることを許さなかった白山に
はじめて登拝(とはい)し、白山信仰の歴史をひらいた人物だ。


 その後の歴史は明らかにされていないが、正応3年(1290)。
新興派の時宗、称念坊兄弟がこの地で伽藍を整備した。
伽藍が時宗の念仏道場として賑わったことから、この時期に称念寺が
時宗に改宗されたと考えられている。


 境内の中ほどに、石柵で囲われた新田義貞の墓所が有る。
義貞は建武5年(1338年)。この近くの田圃の中で、無念の死を遂げている。
敵軍の足利高経は、義貞の遺体を輿に乗せ、時衆たち(時宗の僧)をつきそわせ、
葬礼のため、往生院へ送るようとりはかったと伝わっている。
葬儀が行われた往生院は、いまの称念寺のあたりに建っていたと考えられている。


 1333年5月8日、卯の刻(午前七時)。
東国源氏の8代目棟梁を継承した新田義貞は、一族郎党を従えて
生品神社で鎌倉幕府倒幕の兵をあげた。
鎌倉幕府と刺し違える覚悟で、170騎足らずで決起したと当時の記録に残っている。


 足利氏の加勢と、鎌倉幕府に不満を持つ東国武将たちの援軍を受けた義貞軍は
数日足らずのうちに20万を超える大軍になる。
ときの声をあげて鎌倉へ攻め上り、14日という短期間で鎌倉幕府を討ち果たす。


 このとき新田義貞は、武者盛りの32歳。
だが鎌倉幕府を滅亡させたこのときから数えて、わずか5年後。
後醍醐天皇の忠臣として、南朝派の総大将として各地を転戦した新田義貞が、
福井のこの地で非業な最後を遂げる。
太平記の表舞台に一躍躍り出た忠臣は、37歳の若さでこの世を去る。


 縁も所縁もない福井の地で、新田義貞が手厚く葬られたのには理由がある。
陣に伴う時宗の僧侶たち(陣僧)が、義貞の周囲に沢山いたことがそのひとつに挙げられる。
陣僧は武士団に従軍僧として、身一つで付き添う。
けが人を助け、戦死をしたら念仏を十念し、遺骸を手厚く葬り、菩提を弔うため、
遺族に伝えることが陣僧たちの役割だ。


 すずは保育園に通い始めた頃から、毎日、称念寺の山門前を通り抜けた。
中学と高校の時も、毎日、自転車で山門前を駆け抜けた。
すずにしてみれば、境内に手厚く葬られている新田義貞は地元武将のひとりだ。
何の違和感もなく、なんどか五輪の塔と墓所の前で手を合わせたこともある。
義貞が、遠い上州の出身だと知ったのは、群馬県新田町に有る日野自動車の工場で
働きはじめた勇作の手紙を通してのことだ。


 「うらの初恋の相手ちゅーのは、いまは遠い群馬の地。
 そういうあんたも、はるか上州の神社で挙兵してから、いっぺんも家に帰らずに、
 日本各地を転戦したほ~やの~。
 ほんななんもない片ざいご(片田舎)で命を落とすなんて、思ってもいなかったやざ。
 勇作の奴。きっと帰って来るからなんて言っているのぉ、けど、
 旅立った男の本心なんか、分かるもんか・・・
 あんたと同じように異郷の地で命を落とすのが、関の山かもしれんわね」


 福井便のすずが、醒めた目で、貞義公の五輪の塔を見あげる。
すずはまだ、編み下げ姿が似合う高校1年生だ。
このときはまだ高校を卒業したら、地元の役場にでも勤めようかなどと
のんびり考えている、何処にでもいる女子高校生のひとりだった。


 (2)へつづく




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