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現代小説 更新中

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま(72)

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま(72)

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま(72)
 本枯れ節のカツオ節


画像の説明


 『どうしたんだろう・・・たまは?』
たまの不思議な動作に、清子がすこし不安を覚える。
足もとのたまを抱き上げようとする清子を、恭子が手で制止する。


 「清子。もうすこし待って。
 この風の中に何かを感じたか、何かの匂いを感じ取ったんだと思う」


 すこし様子を見守ろうと、恭子がささやく。
たまがふたたび、匂いにつられて歩き出す。
3歩、4歩と、おぼつかない足取りで、前へすすんでいく。


 「ホントだ。たまが、歩き始めました・・・」


 たまが匂いに向かって必死に足を運ぶ。
しかし。風がまた方向を変えた。カツオ節の匂いが真逆の方向へ去っていく。
突如として方向を変える風が、たまの嗅覚を翻弄する。
そのたびにたまが立ち止まる。
立ち止まったたまが、かすかな匂いを嗅ぎだそうと、小さな鼻を
湿った空へ突き出す。


 「匂いを確認しているみたいです、たまは。
 それにしてもこの風の中で、たまはいったい何を感じ取ったのでしょう?」


 「たまはとくべつスケベな生き物だ。
 とくに女の匂いには、とくべつ敏感な反応を見せる。
 でも、まもなく嵐がやって来る山を歩く、物好きな女はいないはず。
 となると対象は女ではなく、食欲かな。
 大好物を発見した時のような嬉しさが、たまの背中にあらわれているもの」


 たまがまた、カツオ節の匂いを嗅ぎ分ける。
『おっ、また漂ってきたぞ。こっちの方向からだ。
しかも、だんだんおいらに近づいてきている。まさにラッキーといえる展開だ』
元気を得たたまが、ふたたびカツオ節をめざして歩きはじめる。


 話が少しさかのぼる。
場所は、ひげの管理人のいる三国の避難小屋。
山小舎が、天候の急変を察知した避難客たちで、すでに10名をこえた。
切り立った谷から吹き上げてきたガスは、山小屋の姿も隠し始めた。


 表に出ていたテーブルや椅子をかたずけ、水場から飲料水をくみあげたことで、
山小屋は、嵐の到来を待つだけの状態になった。
悪天候の場合。飛び込んで来た避難客を、山小舎は何人でも受け入れる。
もともと飛び込みの、緊急避難場所としての役割を持っている。


 そのため山小舎は、定員を超えても避難客を受け入れる。
人があふれると、大部屋や相部屋で雑魚寝する。
さらに混雑が激しい時は廊下や食堂に布団を敷いて就寝したり、他人と同じ布団で
就寝することもある。


 ひと息ついたひげの管理人が、昼食の準備のために厨房へ向かう。
「俺たちも手伝おう」と、作業員の2人が着いてきた。
狭い厨房の中で、男3人によるカレーライスつくりがはじまった。


 山小屋の食事といえば、作り置きが容易なカレーライスが定番だ。
今の時代。カレーライスを出す山小屋は少数派になった。
しかしそれでも、大量の食事を準備するとなると、やはりカレーライスが定番になる。


 「カレーなら任せろ。俺たちの現場でもカレーライスが定番だ」


 「ありがたい。じゃ俺は、特製の味噌汁でも作ろう」


 ひげの管理人が、清子からもらったカツオ節と削り器を取り出す。
カツオ節は、カチンカチンの本枯れ節。おまけに削り器は、つかいはじめたばかりの新品。
それを見た作業員の2人が、目を丸くする。


 「どうしたんだ。そんなもの!。それで味噌汁の出しをとるのか。
 たまげたなぁ。山小舎にあるまじき一品じゃねぇか」


 「これか。これは、さっき下っていたおねぇちゃんからもらったもんだ。
 世話になった礼にと気持ちよく置いて行った。
 そういえばあの2人。
 ホントに無事に、下まで降りて行ったんだろうか・・・」


 「やっぱり気になっているのか、管理人さんも。
 おねえちゃんたちというのは、ヒメサユリを見に行ったあの2人のことだろう。
 実はおれたちも、あの2人のことが気になっている。
 このガスは、かたらいの丘のあたりから発生したものだ。
 ということは、あそこへ向かったおねえちゃんたちが、いちばん先に
 身動きがとれなくなっているはずだ」


 「俺もその点が気にかかっている。
 嵐が来るまでは、もう少しだけ時間の猶予がある。
 あの2人の安否が、どうも気にかかる。行くか・・・探しに」


 「しかし。このガスだ。
 ヒメサユリの群生地に居るとしても、うまく見つけることができるかな?」


 「それでも俺はあの2人が、かたらいの丘でビバーク※しているような気がしてならねぇ」


 ひげの管理人がカツオ節を握り締めて、ポツリとつぶやく。

 
 ※ビバーク 緊急事態の野宿のこと。日本語では不時露営。
      時間がかかり日が暮れてしまった場合や、急な体調不良や
      天候が急変した場合などのさまざまな場合が有る。
      いずれも山岳遭難の一歩手前の状況といえる。


(73)へつづく

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