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現代小説 更新中

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (76)

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (76)

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (76)
 男と女の2人連れ


画像の説明


 ヘルメットにカンテラを装着している。
未明の時間に麓から、登り始めてきた登山客のようだ。


 「おい。最初の登山客がもうそこの尾根まで登ってきたぞ。ずいぶん早いなぁ。
 いまの時間ここまで来るには、麓を1時か2時に出発するようだ。
 ずいぶん熱心な登山客だ」


 「なんだぁ・・・・手を引いて歩いているぞ。
 へばっている様子からすると、もうひとりはまったくの初心者だ。
 歩くだけで精一杯みたいだ。
 よくあんな状態でここまで登って来たもんだ。感心するぜ」


 三国山荘から出てきた客たちが、はるか彼方へ小手をかざす。
尾根に姿を見せた2人が、ゆっくり山荘に向かって歩いてくる。
「もうひとりは女だな。大丈夫かよ、もう完璧に足がもつれているぜ・・・」


 三国山荘から出てきた客たちが、遠くへ小手をかざす。
尾根に姿を見せた2人が、ゆっくりと山荘に向かって歩いてくる。
「どうやら、もうひとりは女だな。大丈夫かよ、足がもつれているぜ・・・」


 「え・・・・男と女の2人連れ。もしかして!」


 朝食の準備を手伝っていた恭子が、手を止める。
あわてて窓の外へ目をやる。
遠い痩せ尾根の上を、女性をいたわりながら歩く男の姿が見える。
『清子。パパと、小春姉さんがやって来た!』
食器を放り出した恭子が、ドアに向かって走り出す。


 『え?』たまの毛づくろいをしていた清子も、慌てて立ち上がる。
放り出されたたまが2回3回と転がっていく。
そのまま土間へ転がり落ちていく。


 『イタタ。なんだよいきなり。乱暴だな清子は。・・・
 喜多方の小原庄助と小春姐さんが、ここまで登ってきたのか?』


 庭へ飛び出した恭子が、2人に向かって手を振る。
猛烈な勢いで飛び出してきた清子が、あっというまに恭子の横をすり抜ける。
勢いを保ったまま、痩せた登山道を小春に向かって突進していく。


 喜多方の小原庄助に手を引かれ、やっとの思いでここまで歩いてきた
小春が、山小屋から飛びだしてきた清子に気がつく。
小春が笑顔で立ち止まる。
大きく手を広げる前に、清子が猛烈な勢いで小春の懐に飛び込む。


 『怖かったァ~』


 ひとことだけ清子が小春の胸でつぶやく。あとは言葉にならない。
涙があふれてきて、言うべき言葉が押し流されていく。


 かじりつく清子を、小春がやさしく抱きしめる。
頬をつたっていく清子の涙を、小春が指先でひとつずつ丁寧にぬぐう。


 近づいて来る父の姿を、恭子は静かに山荘の庭で待ちつづける。
『私はパパの胸になんか飛び込まないわ。清子のような子供じゃないもの・・・』
ふふふと笑い始めた笑顔が、時間とともに固まっていく。


 「頑張ったんだってなぁお前。偉かったぞ」


 父の手が恭子の髪に触れた瞬間。
恭子の両方の瞳から、不覚の涙がこぼれ落ちていく。
『泣くつもりなんか全然なかったのに・・・泣き虫だなぁ、あたしも』
恭子のつぶやきが、父の分厚い胸の中へ消えていく。


 「お疲れさま。難儀だったでしょう、朝早くからここまで登って来るのは。
 初めまして。山荘の管理人です。
 この子たちの、冷静な行動と勇気を褒めてやってください。
 無事でいたのは、この子たちの正しい決断の結果です。
 遭難寸前になった時。ほとんどの登山客が、不安からパニックになります。
 この子たちは不安と正面から向き合いました。
 褒めてあげてください。さすがに、あなたたちのお子さんです」


 のそりとうしろへ現れたたまを、ひげの管理人が抱き上げる。


 「この小猫も、勇敢でした。
 ピンチを知らせるため、わたしのところへやってきました。
 カツオ節の匂いにつられたそうです。
 ですが、おかげで草原の中の2人を救出することができました。
 この子猫の勇気も、褒めてやってください。
 あ・・・・立話ではなんですねぇ。
 どうぞ、山荘の中へ。
 朝早くから、はるばると登ってきていただいたお2人を山荘にいる全員とともに
 心の底から歓迎します。
 ごらんください。
 嵐が過ぎ去った今朝の飯豊連峰は、めったにないほど素敵な景色です。
 あらためまして、ようこそ、三国山荘へ。
 私が三国山荘を預かっている、ひげの管理人です」


(最終回へつづく)

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