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現代小説 更新中

オヤジ達の白球(5)男のやきもち

オヤジ達の白球(5)男のやきもち

オヤジ達の白球(5)男のやきもち


画像の説明


 陽子が煙草を取り出す。
赤い唇から、ぽかりと煙がたちのぼる。
「吸う?」陽子の問いかけに、祐介がこくりとうなずく。


 「はい」吸いかけの煙草を、祐介の唇へ差し込む。
フィルターに陽子の紅がついている。


 「・・・男なんか、うんざりだ。
 だいいち。あたしの周りには、ろくな男が居ないもの。
 気ままで身勝手で、嘘ばっかりつくんだ。男どもときたら・・・」


 「男でずいぶん、酷い目に遭ってきたような口ぶりだな?」


 「最初は、甘い言葉でちゃほやする。
 そのくせに釣り上げた瞬間から、浮気は男の甲斐性だなんてほざいて、
 好き勝手なことをはじめる。極道たちの世界はなおさらだ。
 義理がどうの、恩がどうのと、体面ばかりを気にしてる。
 それだけ見れば、人の道義にたっぷり神経をつかっているように見える」


 「任侠といえば、義理と人情を秤にかけりゃ義理が重たい男の世界・・・だろう。
 なんだよ。裏側というか、実態は違うのか?」


 「表向きだけさ。義理だ恩だときれいごとを言っているのは。
 いつだって相手のスキを見つけて、陥れて、出し抜くために明け暮れている。
 どうしょうもない世界だよ。いまどきの任侠の世界なんて」


 「そういえば、総長の愛人になったという噂を聞いたことがある。
 ホントだったんだ。おまえが総長の愛人になったという噂は?」


 「昔のことさ。でもさ、ひどい話さ。
 総長がガンで倒れた。
 でも本妻は、涼しい顔を決め込んで見舞いにも来ない。
 組の若い者にいいつけて、着替えを病院へ届けてくるだけだ。
 ぜんぶの世話を、あたしに押し付けてきた。
 結局。亡くなるまでのまる4年、あたしは、総長の看病に明け暮れた。
 なんだったんだろうねぇ、看病に明け暮れたわたしのあの4年間は・・・・
 ・・・・あら、いやだ。
 余計なことを、無関係のあんたに、なんでペラペラ喋っているんだろう。
 あたしの秘密が、ぜんぶ丸裸になりそうだ」


 「へへへ、当たり前だ。
 居酒屋ってのは、客の話を聞くのが本業だ。
 酒の味は何処で呑もうが、ぜんぶ同じだ。
 味が違うのは話を聞いてくれる相手が、自分の目の前に居るからだ。
 人は、おしゃべりをしたがる生き物だ。
 酔えば誰でも、本心が出る。
 心の底から愚痴をこぼしたい時もある。ストレスもたまっている。
 だが、安心して吐き出す場所がない。
 みんな不満や愚痴を我慢しながら、その日その日を生きているんだ。
 居酒屋は庶民が、鬱憤を吐き出すたまり場だ。
 俺はみんなの愚痴を聞くことに、特化している」


 「これ以上、その手には乗らないよ。
 また来るからね。
 あんたの世話ばかりじゃなくて、うちにはもうひとり男が居る。
 そろそろ帰ってそいつの面倒を見てあげないと、あとが厄介なことになるからね」


 「なんでぇ。居るんじゃねぇか、いい相手が」


 「そうさ。首を長くして、あたしの帰りを待っている。
 そいつは、あたしの言う事ならなんでも聞くし、夜は添い寝もしてくれる。
 最高の相手さ。あたしもあの男には、デレデレさ」


 「相手がいるんじゃ仕方ねぇ。
 長い時間、引き留めて悪かったな。さっさと帰れ。
 ありがとうよ。御馳走さん」


 「あら。あたしに男がいると分かった瞬間。
 手のひらを返すなんて、あんたもそうとう薄情な男だねぇ」


 「ひとの恋路を邪魔すると、馬に蹴られて死んじまうからな。
 やっぱりおれとおめえは縁がなかったんだ。
 とっとと帰って、添い寝してくれる男と仲良くするがいい。
 おいらは冷たい布団で、膝を抱えて寝ることにする」


 「なんだぁ・・・妬いてんだ、大の男が。
 そうよ。家に帰れば、最高のパートナーが待っているんだ、あたしには。
 そういうことですから、あたしゃもう帰ります。
 無理しちゃだめだよ。いつまでたっても、腰が治らないからね」


 カチャリと玄関の鍵の開く音がして、陽子の匂いが消えていく。
(苦いな、このタバコは・・・)
最後の煙を吐き出した祐介が、枕元の灰皿へポンと煙草を投げ捨てる。


(6)へつづく

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