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現代小説 更新中

オヤジ達の白球(11)飽きっぽい男

オヤジ達の白球(11)飽きっぽい男

オヤジ達の白球(11)飽きっぽい男


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 居酒屋「十六夜(いざよい)」の閉店時間がちかづいてきた。
祐介がいつものように、厨房で洗いものをはじめる。
常連客がひとり、ふたりと勘定を済ませて帰っていく。


 カウンターに北海の熊。小上がりにゴム職人の岡崎が残る。
この2人は、いつも看板間際まで飲む。それもまた、いつものことだ。
「どれ」熱燗をもって、北海の熊が立ち上がる。


 「おい岡崎。ずいぶん熱心に坂上の話を聞いていたな。
 今度は何だ。坂上のやろう今度は何に熱を上げ始めたんだ?」


 「ソフトのウインドミル投法をマスターして、投手になるそうだ」


 「えっ、ウインドミルをマスターしてソフトボールの投手になる?。
 あいつがか・・・。
 笑わせるな。そんな簡単にウインドミルがマスターできるものか。
 センスのある人間が普通に練習したって、早くて3年はかかる。
 無理無理。まして運動音痴のあいつのことだ。
 10年経ったって絶対に、ウインドミルで投げられるものか」


 「ずいぶん自信たっぷりに言い切ったな。
 俺もそんな風に思うが、やっこさん、今回だけはずいぶん熱をあげていた。
 何がなんでもウインドミル投法を身に着けるって、張り切っていたぜ」


 「いつものことだ。信じることはねぇ。
 いつものようにまたすぐ挫折して、諦めるさ。
 3日と持たず挫折する。そのくせすぐにまた、懲りずに新しい夢を見つけ出す。
 それが坂上という男だぜ。
 長続きしたものがこれまで、なにひとつないんだぜ。
 そのことは同級生のお前さんが、何よりもよく知っているだろう?」


 「たしかにあいつは長続きしねぇ性格だ。
 大騒ぎではじめるが、3月もしないうち、熱が冷めて挫折しちまう。
 たしかにいままでなにひとつ、長続きした趣味がねぇなぁ」


 「ほら見ろ。ゴルフだってそうだった。
 義理の兄貴から使い古しのゴルフセットをもらったのがはじまりだ。
 ろくに練習しないうち、ここのゴルフコンペに誘われた。
 よせばいいのにあの野郎、かるい気分でここのゴルフコンペに参加した。
 結局140打も打って、ぶっちぎりの最下位だ。
 ところがあの野郎、懲りずにまた半年後のコンペに参加した。
 そんときもまた最下位の130打。
 当たり前だ。
 ろくに練習しない人間が、簡単にゴルフがうまくなるはずがねぇ。
 スポーツを舐めているんだ。あいつは根っからそういう男だ」


 「そういえばロードタイプの自転車にも手を出した。
 格好いいからと3何円くらいのロードバイクと、乗るための衣装とヘルメットを
 まとめていきなり買って来た。
 だが夏は暑すぎるから嫌だと言い、冬はからっ風が吹いて寒すぎるから
 乗るには向いていないと、結局のところ乗りもしねぇ。
 いまじゃ玄関でほこりをかぶったままだ」


 「テニスもやったはずだ。
 しかし。3回コートに顔を出しただけで、うまく当たらないからとすぐ諦めた。
 卓球なら簡単だろうと倶楽部に入ったことがある。
 しかしそこでも小学生たちにコテンパンにやられて、一週間でやめた。
 あいつはなにをやらせても、長く続いたためしがねぇ。
 飽きっぽい性格ということもあるが、何事にも努力が必要だという事実を、
 なにひとつ理解していないからだ。
 救いようのない愚図な性格の持ち主だ、坂上って野郎は。
 だがよ。何でまた急に、ソフトボールのピッチャーなんか目指し始めたんだ。
 あっ・・・もしかして、例の謎の女のせいか、ひょっとして!」


 「おう。まさにそのもしかしてだ。
 あの野郎。例の謎の女の気を引きたくて、今度はソフトボールの
 ピッチャーになるそうだ」


 動機は不純だが、今度こそ本気だと怪奇炎をあげていたぜあのやろう。
と岡崎が、みじかい溜息をつく。
あいつの病気は救いようがねぇからなと、ビールに濡れたくちびるを舐める。

 
(12)へつづく

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