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現代小説 更新中

オヤジ達の白球(21)薄化粧の女

オヤジ達の白球(21)薄化粧の女

オヤジ達の白球(21)薄化粧の女


画像の説明


 それから10分が経過した。人がやって来た気配がする。
柊の約束の人だろう。
遠慮気味に、カラカラとガラス戸が開く。
30代半ばと思われる女性が、不安そうな顔で店の中を覗き込む。

 
 「よう。来たな。こっちだ。
 悪かったな。こんな汚い居酒屋なんかへ呼び出して。
 心配するな。遠慮することはねぇ。無理を言って閉店間際に入れてもらった。
 誰もいないから安心して入ってこい」


 女の顔を見た瞬間。総合土木職が声をかける。
ガラス戸に手をおいたまま、不安そうに視線を走らせていた女の顔に、
ようやく安堵の色が浮かぶ。


 「悪かったなぁ。急に俺のほうから呼びだしたりして。
 めずらしく早めに仕事が終わったんだ。こんな時にしか行きあえないからな。
 そうだ。店主を紹介しておこう。
 こいつは俺の昔からの友達で、祐介という。
 無愛想な顔をしているが、口は固い。信用できる男だ。
 祐介。もうすこし飲んだら河岸を変える。
 とりあえずこいつに、生ビールを一杯出してやってくれ」


 女がスカートをひるがえし、柊の隣りへチョコンと座る。
まったく初めて見る顔だ。


 (何者だ、この女は?。何処にでもいそうな主婦という感じがする。
 しかし。この時間に呼び出されて、出かけてくることができるということは、
 柊とただの関係じゃないんだろうな。おそらく・・・)


 祐介が女の前へ生ビールのグラスを置く。
グラスを置くまでのほんの短い時間。
さらに細心の観察眼で、なめるように女を観察していく。


 (濃い化粧をしているわけじゃねぇ。だがスッピンでもねぇな。薄化粧だ。
 ということは素顔を許せる相手という意味になる。
 それとも、化粧する暇がないほど慌てて、ここへ駆けつけてきたということか?
 柊の不倫の相手かな?。
 それにしちゃ清楚な感じが漂っているから、どこか違和感が有る・・・・)


 柊の妻も同じ公務員。隣町の高校で音楽を教えている。
休日の日、2人で仲良く散歩している姿を、たびたび祐介も目にしている。


 「娘が3人。ばあちゃんもいまだに元気だ。
 女ばっかり5人もいるんだぜ、我が家には。
 女があふれていて羨ましいと他人はいうが、家中にあふれる化粧の匂いには閉口だ。
 一人暮らしも寂しいだろうが、女ばかりあふれている家の中も逃げ場所がねぇ。
 苦労するなぁ、お互いに、この歳になってからよ」


 いつだったか朝の散歩で出くわしたとき。柊はそんな風に愚痴を言っていた。
「アマゾネスの巣だぜ。俺んちは」と手を振り、女房のあとを追っていったことがある。


 (柊は、俺が知っている限り、昔から真面目で固い男で通っていた。
 そんな男がいつのまにか、どこかの見知らぬ主婦と『不義密通』の関係か。
 ううん・・・まったくもって一寸先が分からないものだな。人生は・・・・)


 祐介が2人から目を離す。
カウンターに背を向ける。ぼつぼつと厨房の片付けを始める。
2人はぼそぼそと、会話をつづけている。
洗い物が一段落した頃。
柊が『また来るぜ』と女を促して立ち上がる。
5千円札を1枚カウンターへ置いて、女の腰へ手を回す。


 「釣りはいい。口止め料だ。
 少ないが、チップと思って取っておいてくれ。
 ソフトボールのチームがまとまることを祈っている。
 この体型だ。健康のために、俺も運動をやりたいと思っているが、
 仕事に追われて、帰ってくるのがいつもこんな時間になる。
 たまにはお前の顔を見に来ないと、道で行きあっても無視されるからなぁ。
 悪かったな。閉店間際に、すっかり邪魔しちまって・・・」


 立ち上がった柊が、馴れた様子で女の身体を引き寄せる。
女もまったく嫌がる様子を見せない。
それどころか。いつものようにとばかり、男の肩へ細い体を傾ける。


(22)へつづく

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